2019年6月14日金曜日

第16回 日本インターナショナル選手権を観戦して

68日(土)、9日(日)の2日間に渡って今年も日本インターナショナル選手権大会が日本武道館で行われた。

今回で第40回目の節目となったこの日本インターナショナル選手権大会は日本で最も歴史のある競技会のひとつである。

この競技会の面白い特徴のひとつにファイナルソロのベーシック規定フィガーがある。これは決勝に残った7組の選手があらかじめ定められた同じベーシックフィガーを16小節踊りそれから各々のバリエーションに繋げて踊るというものだ。

トップダンサーが皆同じベーシックステップを踊って競う競技会は大変珍しく、さらに日本インターは海外から世界チャンピオンや海外ファイナリストもエントリーするから、競技会で世界のファイナリストのベーシックダンスが見れるこれまた貴重な競技会なのだ。

さてそんな日本インターの今年のベーシック規定フィガーはルンバだった。ステップは以下の通り。

ルンバ(16小節)

1.ファン デベロップメント   2341  2&341

2.アレマーナ  2341  2341

3.コンティニアス ヒップ ツイスト  2341  2341

4.スパイラル(エンディングNo.3  2341  2341

5.リバース トップの46   2341

6.アイーダ(エンディングNo.4 メソッド12341  2341

7.プログレッシブ ウォーク フォワード(エンディングNo.32341  2341  2341

8.フェンシング(スピン エンディングNo.12341  2341

各々のアマルガメーションに続ける





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私は必ず日本インターの前に教室スタッフと一緒に教科書片手に解読して、希望があれば生徒さんにもレッスンで教えている。前持って規定フィガーを知っておくと、トップダンサー達がどう踊るか、自分の踊り方と比較出来るし自分も生徒さんも見る時の楽しみが増える。

見たことある人はわかると思うが、ファイナリスト7組が皆同じステップを踊っていても結構違って見えるから面白い。
それが個性というものなのだが、この個性はベーシックステップの理解の違いから生まれるものだ。ステップをどう理解して何を大切にして踊るかで個性が出てくる。そこが面白い部分であり参考になるところでもある。

さて今回観戦して興味深い事がひとつあった。規定フィガー8番目のフェンシング(スピン エンディングNo.1)の部分の踊り方を変えて踊る組が多かったからだ。フェンシングのエンディングの仕方には、No.1No.22種類のやり方があり今回の規定フィガーのフェンシング (スピン エンディングNo.1)は両足をクローズしてステップを終了しないといけない。

土曜日のプロラテンのファイナリスト7組は1組を除いて6組は皆しっかり両足をクローズして終了していたのだが、日曜日のアマチュアラテンのファイナリスト7組はその真逆で両足をしっかりクローズして踊ったのはたったの1組だった。

男子の足型で説明するならば、最終歩で①右足に体重を乗せる時に右回転を始め、②左足をクローズしながら回転継続し、③両足が揃った状態で回転を終了、しなければならいところを最後に左足を横にポイントして終了するという間違ったフィニッシュをしていた。これはうっかり間違えたという訳ではなく、各々が次のバリエーションステップに繋ぐ為に意図的にやってる事だった。

男子は両足を揃えて立つより、左足を横に開いてポイントした方がバリエーションステップに繋げやすいし、片足を開いて立つ方がカッコいいシェイプもつくし、バランスもとりやすい。

自分も選手の気持ちはよーくわかる。しかし、フェンシング(スピン エンディングNo.1)は両足をクローズして終了するところまでがフィガー。回転のフィニッシュを両足をクローズして終える技術は意外と難しい。今回優勝した世界チャンピオン、リカルド・コッキも「両足を揃えてフィニッシュするのは難しいー」て言っていたくらいだ。さらにそこから次のステップへスムーズに繋げるにはコリオグラフィーや踊り方にひと工夫がいる。そういう部分も期待して見ていたから片方の足を開いてフィニッシュして踊る組が多かったのは少し残念だった。

ちなみにステップを間違えたからと言って減点になる訳ではなくバリエーションも含めた全ての要素を見て総合的に審査員は審査するので順位にはさほど影響はしない。現に私もベーシックステップは少し残念な部分はあったものの、踊り自体はアマチュア選手には元気いっぱいの踊りを見せてもらって楽しませてもらったし今後も選手の成長が楽しみに思ったりした。

ベーシックというものをどう考えるか。今回のフェンシングの件で見れば流石にプロはベーシックに対する意識が高いのかな、と思えて少し安心した。(プロなんだからそうであって当たり前なのだが、、)しっかりと両足を揃えて立つ所までをベーシックの大事な技術として捉えるのか、最後の部分だから片方を開いて立つように変更してもいいだろう、と捉えるかで各々選手のコリオグラフィーの組み方や踊り方の違いが出るし、そういう小さな所からも各々のベーシックやダンスに対する考え方が見えてくるのだな、と勉強になったある意味興味深い2日間になった。

今回このコラムを読んでベーシックをもっと深く知りたいと思ってくれた方はぜひ教科書を買ってみるか、もしくは私にベーシックについて質問してみて下さい。きっと面白い発見がありますよ♪

2019年6月4日火曜日

第15回『オリンピックと社交ダンス』

いよいよ来年開催される東京オリンピックのチケットのインターネット申し込みがつい先日終わった。自分も申し込んだがさて抽選結果はどうなるだろうか。あまり期待せずに待とう。


社交ダンスをオリンピックの正式種目に、と言われて久しくなるが未だ実現までは至ってない。社交ダンス界がオリンピック正式種目を目指すようになってから50年近いらしい。私がプロになってからだけでも度々正式種目になるかもと盛り上がったが結果選ばれず、その都度がっかりした。


それどころかこのオリンピックを巻き込んでダンス界は大変な事になってしまった。ブラックプールやUK戦など伝統ある競技会を行ってきたおおもとの伝統ある団体WDCと、オリンピックをアマチュアだけでやりたいとするアマチュアを主体とする団体WDSF、世界が2つの団体に分裂してしまったのだ。



さらにその数年後、元々アマチュアだけでやりたいとしていたWDSFがプロ部門を作ったものだから事態はもっと複雑になってしまった。



かくして相入れない2つの団体が誕生し、選手はどちらかの団体を選ばないといけなくなり、日本も世界の流れに巻き込まれるようにWDSF傘下のJDSFWDC傘下のJBDFJDCJCFなどに分かれているというのが現在の状況だ。

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このWDCWDSF2つの団体、現状WDCはオリンピックよりブラックプールやUK戦など伝統ある競技会を重んじる団体、WDSFはオリンピック志向でIOCの意向に沿った競技改革を進める団体といえる。

 
WDCも元々はオリンピックを目指していたのだが、オリンピック種目に選ばれるにはスポーツ性と客観性を強く打ち出さなくてはならず、競技会の審査方式や審査基準、場合によっては競技会スタイルも変えるなどIOCの意向に添う必要がある。

さらにそこには近年興行化したオリンピックの利権等も絡んだ組織改革も必要となるだろう。結果WDCはオリンピックよりもブラックプールやUK戦といった伝統のある競技会の方を守っていくスタンスをとっているのだ。
  対してオリンピック志向のWDSFでは、1回転より2回転、2回転より3回転、スピードと運動量、よりスポーツ性が強調されたダンスになってきている。つまり若さと身体能力が必要なのだ。そうなるとフィギュアスケートなど他のいくつかのオリンピック種目と同様に社交ダンスもチャンピオンは10代、20代はもうベテランなんて言われるような時代がくるかもしれない。

それはもう「踊るダンス」でなくて「見るダンス」の方だ。

フィギュアスケートはTVでも放送される人気のあるスポーツだが、自分は「見たい」とは思うが「やりたい」とは思わない。(自分が10代だったらやりたいと思うかもしれないが、、)スター選手が生まれ、TV放送されればスポンサーもつくし、子供にやらせたいと思う親は増えるだろうから興行としては成功だ。


ただ社交ダンスの真の良さはそうではない。「見る事」はもちろん楽しいが、やはり見てるだけではつまらない。自分が踊ってこそ楽しいのが社交ダンスなのだ。


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そんな経緯を見てると、自分も最初は社交ダンスのオリンピックを強く望んでいたが最近はちょっと変わってきた。


オリンピック種目になれば嬉しいという気持ちに変わりはないが、スポーツ性は社交ダンスの持つ良さの要素のひとつに過ぎない。



オリンピック種目になれば認知度があがり、さらにはオリンピックを目指す子供が増え、いや、オリンピックを目指して社交ダンスを習わせる親が増え、そういう意味で業界は盛り上がるだろうから、それ自体は嬉しい限りだ。そしてスポーツとしての社交ダンスを観戦し拍手する。それも社交ダンスの楽しみ方のひとつ。


ただ、社交ダンスは若い人だけのものではない。若者から年配者まて幅広い年齢層まで楽しめるのが社交ダンスの真の良さなのだ。


もともと社交ダンスは年配者でも踊れるように出来ているダンスらしい。例えばルンバでカウント1から踊らず、2のカウントから踊り出すのも年配者でも音を取りやすいようにしている為だと聞いた事がある。


あるWDCの海外コーチャーが言った。「たくさん回転すれば良いってものではないのよ。どんな感情で回るかの方が遥かに大切なの。」


フィーリング溢れる""のあるダンス。踊る人それぞれがそれぞれの感情を込めて踊り、踊る人みんなが主役になれる、それが社交ダンスの良さであり楽しさ。だからこそ社交ダンスは素敵なのだ。


人生100年時代と言われるようになった。日本はこれからどんどん高齢化社会になっていく。


だからこそ年配まで長く楽しめる社交ダンスには価値があると思う。そんな価値ある社交ダンスの踊る事の楽しさや素晴らしさを私たちプロは伝えて行かなければならない。少なくとも自分はそうありたい。


深夜にオリンピックチケットの申し込みをしながらふとそんな事を考えた。




『第15 ダンスのキセキ「オリンピックと社交ダンス」』


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2019年4月12日金曜日

第14回『「立ち方」について②』

「立ち方について」の続き。

「立ち方」を考える時、「骨」と「筋肉」という2つの身体の要素を分けて考えた方がいい。

初心者にありがちな筋肉の過剰な力で立とうとする(姿勢を作る)のは良くない。筋肉で姿勢を作ろうとするのはそもそも「立ち方」の根本が間違っているから身体のどこかに力みが出てしまって、いい立ち方はもちろんのこと、いいパフォーマンスは出来ない。


「立ち方」の基本は「骨」で立つこと。グレートチュンピオン、ドニーバーンズのパートナーのゲイナーにも「骨で立つ」と教わった。

まずは、筋肉の無駄な力を極力抜くこと。そうすると次第に自分の骨の存在を感じれるようになる。そこからが立ち方のスタートだ。


①足の裏の土踏まずに重心を置く。この時の重心とは体重のことではない。体重はつま先になったり踵になったり変化するが重心は変わらない。重心は常に土踏まずに置くこと。

②土踏まずの上にペルビス(骨盤)を置く。後に「筋肉」でよりアクティブなバランスを作って行くので、ここではあまり細かい事は考えずペルビスの重さを感じられる程度で良い。

③ペルビスの上にリブゲージ(肋骨)を乗せる。

④土踏まず、ペルビス、リブゲージの上に鎖骨と肩、肩甲骨をそれぞれの重さを感じられるようにリラックスして乗せる。


  ①②③④の順に積み木の要領で骨組みを作る、これが「骨」で立つことの基本だ。非常にシンプルで、これくらい知ってる、と思うかもしれないがこのニュートラルな基本が実は一番大切だ。

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そして「骨」でニュートラルなバランスが作れたら、ようやく次に「筋肉」を使ってよりアクティブなバランス(踊れるバランス)を作る。

   

⑤太ももの筋肉を使って足裏から床へ向かってフットプレッシャーをかける。


⑥足裏から床へフットプレッシャーをかけると、逆に床から上方向への反発力が生まれる。この反発力でハムストリングを持ち上げる。(これによってヒップアップする感覚になる)ももの前側は下への力、ももの裏側は上への力が働いている状態になる。


⑦ハムストリングから更に上へ繋げて背中のちょうどみぞおちの裏辺りの部分を上に引き上げる。


⑧肩甲骨はやや横に広げ、鎖骨と肩を上から蓋をするような感覚で下に落とす。ただし過剰に下にやりすぎないこと。


⑤⑥⑦⑧、これで前傾姿勢が作られよりアクティブな踊れる立ち姿勢になる。


特に大切なのは⑥と⑦。


全体的なイメージとしては背中を立てて斜め前方へ伸ばすイメージだ。さらにわかりやすく言うならば大きな扉を背中に背負って立っているような感じ。



よくある間違いだが、自分の身体を大きく見せようと身体の前側を伸ばし顎を上げてしまう。目線が上がり自分では姿勢良く大きく立ってる様に感じるのだがこれは錯覚で実は外からは背中が潰れてしまってむしろ小さく見える。

やや目線を下げ、背中を立てて後頭部から斜め前方に引き上げた方が身体は大きく見えるのだ。


自分の場合はこの立ち方に意識を変えた時にA級に昇級出来たし、表現力、空間の大きさなど踊りの幅も広がった気がする。

「立ち方」を変えるとシルエットが変わるだけでなく、使える筋肉の部位も変わる。動作に入る時の各パーツの始動や連携も変わる。さらに「立ち方」は男女のコネクションにも大きく影響する。


自分は毎日最初にフロアに立つ時、ルンバの立ちポジションを作ってその日の身体の微妙なコンディションの違いを確認している。そして「立ち方」を意識しながらバランスを修正する。


立ち方は日々研究。だから面白い。

『第14回ダンスのキセキ「立ち方について②」』



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2019年4月3日水曜日

第13回『「立ち方」について①』

今回は「立ち方」について。

ダンサーにとって「立ち方」は重要な課題だ。自分も現在の「立ち方」を確立するのに10年以上かかった。大きく変えただけでも3回は変えたし小さなものを含めると数えきれない。

大きく変わった1回目は大学4年生の時だった。その時は特別意識して立ち方を変えようとした訳ではなかったのだが、他大学の学連ファイナリストのライバルOに「坂本さ、立ち方変えたでしょ?」って言われハッとした。

当時、コーチャーのM先生がCDを変えるときのオーディオの前に立っている時の姿、とりわけ丹田の位置がやたらカッコよく見えて密かに研究して真似していたからだ。丹田を引き上げ、丹田の中にある風船を膨らませるイメージでやや丹田に力を入れ腹圧を強める。

ダンスではなく普段の生活で意識してるうちに「立ち方」が変わっていたのだがダンスにもそれが出ていて、後輩が撮ってくれた自分の踊っている動画を見た時にチャチャチャのキューバンブレイクで開く時の腰の運びが力強く素早くなっているのを感じたのを覚えてる。


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「立ち方」を変えた2回目はプロになって34年目の時。この時は自ら「立ち方」を変えた。

当時は朝から夜まで生徒さんのレッスンがびっしり詰まっていて、一番忙しい日なんかはスタジオ営業の前後にそれぞれプロを23組ほどレッスンしていたから朝10時から夜11時まで全く休みナシの13時間連続でレッスンした事もあった。
しかも1レッスン30分のスタジオだったから(最近では1レッスン25分のスタジオがほとんどだが)前のレッスンと次のレッスンの間に全く合間がなかった。むしろレッスンが終わってチケットを頂いて生徒さんと次のスケジュールの打ち合わせをしたらあっと言う間に23分は経ち、途中お手洗いに行こうものなら56分はすぐ経ってしまうからどんなに頑張っても夜の生徒さんのレッスンは大抵10分から15分推してしまう。

まさに分刻みのスケジュールとはこの事で、当時生徒さんもそれをわかってくれてたからレッスン開始時間の遅れには寛大に接してもらえた。


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さて前置きが長くなってしまったが、そんなハードスケジュールの他にプラスして自分の練習を23時間やる毎日だったから、5メートル歩くのに1分かかるような大きなギックリ腰を何回かやった。ギックリ腰をやる時は大抵、前日は深夜12時くらいまで絶好調に練習していて、次の日の朝目が覚めると布団から立ち上がる事が出来ない、という感じだった。


そんなギックリ腰を繰り返していたある日、さすがにこれではいけないと思い「立ち方」を研究した。


自分は反り腰気味だから踊る時どうしても腰に負担がかかりやすかった。ただし反り腰は決して悪い面だけではなく、背中からヒップのラインがキレイに見えるという良い面もある。ダンサーを数多く施術していた整体師の先生Jにも施術中「坂本君は背中のラインがキレイだねー」と良く言われていた。


数日間、背骨の湾曲を研究し色々試した結果、背中のラインは今のラインを維持しつつ第3腰椎辺りから仙骨までをやや後ろ上方へ引き上げるようにした。そうすると腰に芯が入り棚が出来たような感覚になって腰が安定した。大きなギックリ腰もそれ以降はほほとんどなくなった。


「立ち方」は背骨の湾曲と軸の意識が大切なんだと気づいた時期だった。



そして最後に3回目の変化についてだが、これは現在ある程度確立した自分の考える「立ち方」につながっているので次回「立ち方について②」で改めて書こうと思う。


『第13回ダンスのキセキ「立ち方について①」』

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