2017年6月27日火曜日

第7回『「種を蒔く」という事』


選手をやってると、成績の「伸びる時期」と「伸びない時期(伸びないだけならまだマシで成績の落ちる事も多々ある)」が交互にやってくる。

言い変えるならば「成長期」と「停滞期」だろうか。交互にやってくるこの2つの波、波にも大小あるが、自分の場合は大きな波だけでも34回はあった。


誰でもそうだが「停滞期」は辛い。長く続くと自信がなくなり自分の能力を疑い始める。自分の才能もここまでか、と諦めの気持ちがチラホラ、いやそんな事はない、まだ上にいけるハズ、と自分自身で葛藤する。

意識が自分に向いてる人はまだマシだ。人によっては、コーチャーのせいにしたりジャッジのせいにしたり、パートナーのせいにしたり、環境のせいにしたり、、etc、責任を他に転嫁し始める。

そうなるともう手がつけられない。


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この出口の見えない迷路を脱するには「停滞期」をどのように捉え、いかに自分のマインドをコントロールするか、これが大事。

今は花を咲かせる為の「種を蒔く時期」だと捉えて、今やるべき事をやる、そう考えモチベーションを切らさないようにしなくてはならない。

考えてみて欲しい。

花は種を蒔かなければ咲かないし、種を蒔いたからといって今日明日で咲く訳でもない。花が咲いた時の事を想像しながら芽を枯らさぬよう水と肥料を与え続ける。地味な作業だが花を咲かせるには結局はこの積み重ねが大切なのだ。

この後必ず良い波くると信じて今はその時の為に準備をする。

ベーシックを見直したり、振り付けをいじったり、コネクションを研究したり、はたまた、どういった踊りや踊り手が評価されているのか、この先自分はどういった踊りをしたいのか目指していくのか、客観的な目線で自分を見つめる絶好の機会なのだ。

そう考えられさえすれば出口は必ず見えてくる。そしてまたひとつ大きくなった自分と出会う事になる。

(第7回 ダンスのキセキ『「種を蒔く」という事』)

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2017年6月2日金曜日

第6回『ダンスは創造』


元宝塚の振付師Y先生が「間違っていることを間違いと知らずにやるのはだめだが、間違いと知っていてわざとやるのは良いんだよ。」とおっしゃったことがあった。もちろんこれはダンスの技術に関する話であり法律を破れと言う話ではない。

自分たちのサンバのリバースロールを見て、「1歩目の膝をより深く曲げ5歩目を上に伸び上がるようにして高低差のある踊り方にチャレンジして見なさい。」とアドバイスして頂いた時に「既存のリバースロールの技術とはちょっと違うかもしれないけど、、」と続けておっしゃった言葉だった。

結局その既存とは違うやり方のリバースロールは完成するには至らなかったのだが、その言葉がやけに心に響いて今だに残っている。つまり既存のものでない新しいものを創造するには、時にあえて違うやり方をやってみるという考え方も必要なのだという事をY先生は言ったのだ。

ダンスは創造だ


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そういえば、ワルツのホイスクというステップはミスから創造されたステップだ。リバースターンの3歩目で本来足をクローズするべき所、勢い余って後ろへ交差してしまったのだがこれが案外いいステップだ、となったのが始まりらしい。まさに怪我の功名で出来たステップだ。

昔、自分の学生の時からの師匠M先生が「ドニーバーンズが黒色を見て、これは白色だ、と言ったら、俺も白色だと信じる。」と言った事があったがやはりトップダンサーは考え方が違う。そう考えるとダンスの可能性は無限で楽しい。

ダンスは芸術、芸術は創造。新しいものを創造するには自分のカンを〝信じる力が大切なのだ。


(第6回  ダンスのキセキ)





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2017年1月10日火曜日

第5回『元日のレッスン』


年が明けて新年が始まった。


ダンサーは休日が少なく、特に連休は自分の場合、基本お盆と年末年始だけである。


その貴重な年末年始の連休の1月1日まさに元日に、コーチャーのレッスンを受けに行った事が選手時代にある。


そもそも元日にレッスンをしてくれるコーチャーも珍しくレッスンする方の先生も大変である。


自分も年始くらいはゆっくりしようと思っていたのだが「元日レッスンするから来なさい。」とO先生の方から声をかけてもらったので、一瞬迷ったがせっかくなので頑張ってレッスンに行く事にした。


前日の大晦日はお酒もほどほどにして、翌日新年のご挨拶の菓子折りを持って午前10時にレッスンに伺い、いつも通り熱いレッスンをして頂いた。


レッスンの帰り際は新年いち早く踊り始めを出来た充実感で、すがすがしい気分だった。


行ってよかったと思った。


元日のレッスンだから何か特別なレッスンをした訳ではない。


それを期待して読んで頂いた方には申し訳ないが、このいつもと変わらないレッスンを元日にした事が貴重な経験だったしこれが大事なのだ。


そもそもすぐ後にUK選手権を含めた渡英が控えていたから選手時代は毎年ゆっくり正月気分を味わえるような感じではなかった。


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自分の場合は、航空チケットが安くなる1月7日以降に日本を発ち、それから月末まで約3週間ロンドンでダンスのレッスンと練習をしUK選手権が終わって帰ってくるのが毎年のスケジュールだった。


そしてロンドンから帰ってきたら2月から日本で競技会が始まる。


2月から続く競技会で良い結果を出すか否かは、年末年始の練習、いや本当はもっと前の11月、12月をいかに充実した練習にするかにかかっている。


理由は、競技ダンスの世界では結果が出るのは早くても3ヵ月、普通は6ヵ月くらいかかるからだ。


テストならば一夜漬けが功を奏する事もあるだろうが、ダンスで一夜漬けはまずありえない。


むしろ一夜漬けなんてすると当日のパフォーマンスに悪い影響しかないだろう。


ダンスは、脳ミソで覚えた事を、考えずとも自然と身体が動くようになる所まで持っていかないといけない。


つまり、この脳ミソと身体の各パーツが神経で繋がるまでに早くても3ヵ月から半年かかるのだ。


有識化したものを無意識化するまでには時間がかかるのである。


2017年今年前期の成績は、2016年昨年の後期どんな練習をしたかで実はもう決まっている。2017年後期の成績は2017年前期の練習にかかっている。


そう思って選手の皆さんには毎日毎日の練習を大切に頑張って欲しい。

(第5回  ダンスのキセキ)


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2017年1月4日水曜日

第4回『プロ競輪選手の同級生H君の話』


同級生にプロ競輪選手のH君がいる。彼は毎年年末に行われるプロ競輪新人選手のビッグレース、ヤンググランプリに出場した事がある程の一流選手だ。


小学生の頃、家も比較的近かった事もあり鹿児島の田舎道を彼とよく自転車で走った。普通はブレーキをかけるような結構な下り坂をブレーキをかけるどころか逆にペダルを踏み込み、更に加速しながら、坂道を下って行くH君をやけに覚えている。H君がプロ競輪選手になったと聞いた時、天職だ、と思った。


そんなH君とつい先日、実に約20年振りに再会する事が出来た。突然H君から「今日会いに行ってもいいかな」と連絡が入り、その日の夜、神楽坂のダンススタジオを訪れてくれたのだ。


久しぶりに再会したH君は勝負の世界で生きているとは思えないくらい昔と変わらない穏やかな人柄だった。だがそこは一流アスリート、闘志は内に秘めるタイプなのだと思う。(自分も同じく内に秘めるタイプだからなんとなくわかる。)


その日富山で競輪のレースが終わってその足で自分に会う為東京へ来てくれたようで「前もって連絡してくれたらよかったのに。」とH君に言ったら、レースで万が一、落車などしてケガをして来れなくなったら悪いから、と思ってあえて前もって連絡しなかったそうだ。


体を張った厳しい世界で生きているんだな、と思うと同時に、H君の優しい心遣いを感じた。

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さて、スタジオでH君と久しぶりの再会の喜びを分かち合った後、その日はラッキーな事に夜レッスンが空いていたので場所を変えて夕食を食べながら沢山話をする事が出来た。


懐かしい昔話から、競輪の話やダンスの話、あいさつや礼儀の話まで色んな話をしたのだが、その中で非常に興味深い話があった。


H君曰く自転車のペダルを漕ぐ時、脚だけでペダルを漕ぐのではなく、肩甲骨を緩めて肩甲骨から脚部への連動でペダルを漕ぐそうだ。競輪用語では全力でペダルを漕ぐ事を”もがく”と言うらしい。なるほどそう言われるのも納得出来る。


ダンスでも肩甲骨はかなり重要だ。自分はルンバウォークの時、肩甲骨を自転車のペダルを逆漕ぎするイメージで動かす。生徒にもルンバウォークの肩甲骨の動きは自転車の逆漕ぎだよ、と以前からレッスンで教えて来た。だからH君の話を聞いた時、ルンバウォークと一緒だ、とすかさず思った。


やはり人間の身体能力をフルに発揮する為には同じ身体の使い方になるという事なのだろう。自転車とダンス、一見全く違う物のように思えるスポーツでも、身体の使い方の共通点を発見出来たのは嬉しかった。


自分は一足先に選手を引退して今は審査員をしてる。ジャンルは違うが現役で頑張っている同級生H君のさらなる活躍を心から願っている。


(第4回  ダンスのキセキ)

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